印税生活?印税生活に憧れるヒト、ずいぶん多い。 しかし、日本に印税だけで生活できているヒト、何人くらいいるのだろうか? 学生時代の友人のおじさんに、詩を書くのが趣味の人がいた。 なんのきっかけがあったのか、そのおじさんの書いた詩が、 ある女性演歌歌手の曲に使われた。 その曲、あれよあれよと言う間にミリオン・セール、100万枚を超え、 おじさんは「いやぁ、いい小遣いになった」とご満悦。 当時、歌謡曲の印税は、一曲につき6円だったそうだ。 一編の詩を書き、その曲が一枚売れると6円、手元に入る。 ということは、100万枚売れたら、600万円が印税ということ。 そりゃ~、いい小遣いであろう。 音楽の印税、今はどういう計算をするのかは知らないが、もし当時のままだと、 自分で詩を書き、歌うシンガー・ソングライターは、一曲につき、 --6×2=12円也 の印税を得ることになる。アルバム全部自作、12曲あるとすると、 --12×12=144円也 が、アルバム1枚売れる毎にフトコロへ。 現在のごとく、アルバムが数百万の単位で売れたらどうなるか。 計算する気が失せるほどの金額が、その作者へ流れていく。 自分で歌うとすると、歌う分の印税はまた別だ。 楽曲の著作権は25年だか何年だか忘れたけど、権利が続く間、 なにもせずに印税は入ってくる。 先にあげた某女性演歌歌手のヒット曲は、その歌手のベスト盤にはもちろん、 「昭和のヒット歌謡」とか「思い出のムード演歌」的なオムニバスには 必ず入っているから、期日が来るとその印税はおじさんの口座に振り込まれる。 これぞ「印税生活」の素晴らしさ! が、そろそろ著作権が切れる頃かも。 しかししかし、印税は甘くない。 ぼくの身近に、文字を書くことを仕事とする人がいる。 これまでに5、60冊の著作がある。 生まれてこのかた、会社勤めをしたことがないというのだから、 仕事は「作家」と言っていいだろう。 しかし、印税生活者と言えるかどうか。 その人は、一冊の本を書くために数年、短くとも3年くらいは取材をする。 そして、執筆に半年から一年。ゲラ刷りを見、編集者と話し合い、 校正もして、ようやく上梓。 インクの匂いも芳しい、ういういしい書籍として書店の隅に並ぶ。 ここからが問題。 書籍の印税は、普通10%。1500円の本ならば、一冊売り上げる毎に 150円が作者の元へ行くことになる。 当然、売上部数が収入に直結するし、何部印刷するかということが その目安にもなる。 決して売れ筋とは言えない本ばかり書いてる知り合いの場合、 初版で多くて5000部、普通は3000部というところ。 それが完売することは、大抵の場合、ありえない。 たとえ完売したとしても、 --150×3000=450,000円 取材に3年、書くのに1年、それから本となるまでまた数ヶ月をかけ、 しかし、手元に入るのは45万円也。 本が再版になることは、これまたほとんどない。 だから、生活は新聞・雑誌その他のメディアに文字を書くことでしのぐ。 なんたる危ない印税生活だろう。 3年4年5年とかけてモノにした本。その結果、手元に残る印税。 それは、取材にかけた費用にさえはるか遠く及ばない。 そうした物書きが、書店に並ぶ本の作者全体の大半を占めるだろう。 好きではないとできない、問題意識がないと続かない、 ひたすら自分で自分を見つめ、磨き上げる、それしかない。 そんな姿を見ていると、なんとも大変だとしか言いようがないし、 こうした人たちがいないと、ぼくらは読みたい本を読むことが出来ない、 それを実感する。 売れ筋の本を主体に入れる。 それは、商売としての書店として当然のことだろう。 しかし、この世に、印税生活できる人の音楽や書籍しか出回らなくなったら、 どんなに味気ないことか。 平積みされる本ばかりになったとしたら、 ぼくはもう書店に用はない。 がんばれ! 決して儲からない印税生活者たち! (2004.05.03) ジャンル別一覧
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